もしも・・・であったなら

家の前のポプラでもないがそのような木が黄金色に染まって、桜の木はやや黄色味を帯びた赤に、ケヤキも赤褐色に、というように、家の周りの紅葉は今が真っ盛り。時々、風がざーっと渡っては葉っぱを散らしていく。窓の外を眺めながら、ここは日本なのだけど、高校時代に入れ込んで見たミュージカル映画キャメロット」みたい、と思い出したり。

 

レコードが擦り切れるぐらいサウンドトラックを聞いたので、どの歌も歌えるぐらいだけど、タイトルソングのキャメロットが一番好きだったかな。雨は日没後には降らず、霧は午前8時までには晴れ、7、8月は暑からず、夏は9月まで続く、雪は・・・とか、世界一幸福なところ、キャメロットなどと理想的な季節の推移を語っている歌。

 

映像として記憶に残っているのは、黄金色の落ち葉の舞う秋の風景だったりする。

 

そう言えば、JFK時代をアーサー王になぞらえて、キャメロットと読んでいたような気がする。アーサーは結局裏切りによって亡くなるわけだけど。

 

裏切りと言えば、これで10日ぐらいずっとかかりきりで読んでいたPALE HORSEの作者、Savinkovの伝記が昨日読了。英語の原著も500ページ以上あるらしいが、日本語版はもっと長く700ページに近い。

 

Savinkovはロシア人なのだが、ワルシャワ生まれ、育ちで、学生時代から革命運動に参加。要人の暗殺を企てるチームを率いるリーダーだった。革命期のロシアでは暗殺が16000件もあって、国中が狂気のような状態だったわけだ。

 

しかし、帝政が崩壊してから、今度は様々な勢力が跳梁跋扈、内戦状態になって、彼は一時期臨時政府のケレンスキー内閣にも属したが、すぐに下野して、ボリシェビキと今度は戦うことになった。

 

危険人物として秘密警察に追われる身となり、パリなどヨーロッパ各地を転々として、ボリシェビキの危険をいち早く察していたチャーチルに情報提供や説得をしたり、最終局面では、ポーランド政府(独立して反ロシアであったので)から資金や武器の援助を受けたりした。サマセット・モームも諜報員として彼に接触し、並々ならぬ印象を受けたと、自分が会った凄い人間20人の一人として語っているとか。

 

手に汗握り、何度もため息をつきながら読んだのだが、それは「ああ、この時点で反ボリシェビキが勝っていたなら、ロシアは全然違った国になっていただろう、おそらくもっと穏健な社会主義国であったのでは」と思わせられることがしばしばだったから。

 

つまり、それほどボリシェビキ側の勝利は確定的でなく、白軍側も様々な勢力が入り乱れ、さらに敵側に寝返る者がいたり、まるでオセロゲームのように変転極まりないものだったから。

 

しかし、一番怖ろしいのは、彼のようないわば百戦錬磨の陰謀家が、秘密警察的特務機関の陰謀にかかって、ロシアにおびき寄せられ、逮捕されてしまったことだ。この特務機関は、白軍系での共闘できる勢力を探していた彼に、架空の白軍シンパ勢力「自由民主党」というものを立ち上げて、彼の部下や周辺人物を買収して、この架空の勢力を本物のように信じさせる、非常に手のこんだやり方をしていることだ。

 

しかし、彼は最後まで信じ切ることはできなかったが、欧米の支援も難しくなって、危険を承知で、覚悟の上、身辺整理をしてロシアに5年ぶりに帰国したということは、それなりの決意があったと思われる。

 

しかし、それら架空の自由民主党シナリオはあまりにも細部まで「芝居」が細かくできており、まるで映画を見るようで、怖ろしいものだった。

 

彼と随行者がようやく長い過酷な旅路の果て、姿を隠して国境を越え辿り着いたある家で、突然、逮捕要員に踏み込まれる場面は圧巻で、そこでSavinkovが全く冷静に「この朝食を済ますまで待っていただけますか」と慇懃無礼に言ったのは、今でも伝説的な語り草になっている。

 

彼はこの最後のロシア潜入の際、ボリシェビキ要人4人を暗殺する計画をもっていた。その一人がヨシフ・スターリンであった。もしSavinkovの計画が成功していたら、全く歴史は変わっていただろうに・・・。