クモ

夕方、少し明るみの残っている玄関先とリヴィングとの境にある引き戸の前に、何か茶色い小さなものが落ちている。

 

ゴミかしらと思って見てみると、なんだかごく小さい虫のようである。手足が長いけれど、あまりに小さいので、ただの毛束みたいに見えている。

 

そういえば、ずっと前に浴室で忙しく蜘蛛の巣を張っていた小さなクモ、あのときは

動かなくなったので死んだと思っていたけれど、その後その場所から見えなくなって、あるとき、玄関の少しへこんだ場所にやはり小さな巣を張っているのを見つけたのだった。

 

ああ、あの時のクモではないかしら、と思って、そっと、そのあたりをいじらないようにしていたのだけど…。

 

そのクモがおそらく死んだのだろう。それでも、リヴィングの入り口までやってきて

死んでいるのに、何か愛しさを感じた。最後の挨拶だったのだろうか。

 

いつも忙しく蜘蛛の巣を張っていたクモよ、ご苦労さま。