雪殿2

酷暑が続いている。まるで梅雨が明けてしまったような暑さ。

 

酷暑のなか、一昨日は重い腰をあげて、久々に渋谷へ。表参道とのあいだぐらいにあるミニシアターに、雪殿のドキュメンタリー映画を見るためだった。賞は基準に必ずしもならないが、たくさん貰っているものだ。

 

緊迫感があるなかに、さりげなくユーモアもある、たいへんよくできた映画で、感心した。ドキュメンタリーというと、だいたい力が入って、主張を押し付けるようなところもあるのだが、これは事実を淡々と積み重ねていく。

 

最近はなんでも一応は疑うことにしているので、Sのばくろから亡命にいたるまでの流れに「リアルタイム」で寄り添って撮影していること自体に、「ひょっとしてこれにもウラが」と思ったりもするし、最初にSはこの映画の監督にコンタクトして、その後、この発表にはジャーナリストの手を借りるべきだろうということで、G紙の記者と会うことになったわけだが、この記者に特別の底意はないにしても、もしかしてということを考えてそれをも割り引いても、この映画のSのキャラクターと素顔は興味深いものだった。

 

最初は記者と会うにも、かなりお互いに警戒している部分もあって、それがだんだん議論を重ねて溶解していくさまも興味深かった。表情でそれがわかる。そこが「芝居」をしている「映画」とは違う。

 

Sはとても繊細且つ自分の考えをはっきり持っており、単に頭がいいというだけでない、インテリジェンスを感じさせるキャラクター。自分の言葉で語れる哲学を持っている。

 

最初から彼が再三強調していたのは、この問題の中心は「監視」であって、「ばくろした自分」ではないこと。だからというべきか、監督と連絡の際のハンドルネーム、シチズン4というのも、最初のひとりでもないし、このあとに続くひとたちがいるであろう、という意味だったようだ。

 

通常、こういった情報ばくろはソースを隠そうとするものだが、いずれにせよ突き止められるわけだから、むしろ最初から堂々と顔を出そうという、逆転の発想があった。

 

なぜ彼がこうした行動に出たかは最終的には本人だけがわかることだろうが、彼が何度も泥雲による監視映像が常にエヌエスエイでは見ることができること、それに抵抗を感じることが大きくなっていったことがあるようだ。攻撃用泥雲ではなく、監視用の泥雲の話は何回もインタビュー中でしていた。

 

面白かったのは、記者のインタビューは香港のホテルの一室でおこなわれているのだが、盗聴や監視に皆が常に注意を払ってナーヴァスになっているところへ、火災報知器のベルが一回リーンと鳴る。なにかの警告かと皆が顔を見合わせる。音はすぐ止むのだが、しばらくするとまたリーンと。「こんなことはあまりないんだが…」とSが電話機のウラをひっくり返して、しげしげと眺めたり。そこでまたひとつベルが。思い余った記者がフロントに電話して、「この火災警報はなんなんでしょう」ときくと、「あ、今、火災報知器の点検をしているんです」とフロント。どうりで、ベルがワンコールだけだったわけだ。脱力する全員の顔。

 

ばくろに関して決意は固めていたものの、同居している恋人には何も言わずに出てきたわけだから、彼女からのメールで、Sの会社のひとが家へやってきたこと、自動支払いになっている家賃がなぜか落ちなくて5日後に退去と言われていること、家の前に工事車両が何台もやってきたことなどを知り、ノートパソコンの前でじっと悩んでいる様子が人間的だった。

 

ホテルを出て、UNHCRの香港事務所へ身を隠すことになって、人権派弁護士が手順を説明にきたり、ジュリアン・アサンジから電話があったり、と。アサンジはベネズエラエクアドルか、あるいはアイスランドか、などと言っていて、飛行機のチケットを買うのは困難だろうから、プライヴェートジェットにしよう、なんて言っていた。

 

(アサンジはそんなに金持ちなのか、とこのあたりでちょっと疑惑を感じたり…)

 

驚いたのは、イギリスのジーシーエイチキューもある意味すごい情報収集をおこなっていることで、海辺のケーブル基地の施設などの風景がうつったのも、印象的だった。

ドイツのも立派な施設だ。

 

ニュースで知っていたが、提供されたデータが入っているHDをガーディアン社に圧力がかかって壊されるシーンが圧倒的迫力であった。これでもか、というぐらいドリルで穴を開けて、めちゃくちゃにしていく。

 

それ以外は、ひたすら淡々とした進行であった。

 

なかでも、最後近く、いやラストシーンだったと思うが、モスクワに合流した恋人が

、窓際のキッチンでお鍋をかきまわしていて、彼女が消えると、今度はSが現れて、お鍋をのぞきこむシーン。夜景で、外から撮影されている。さりげないワンカットだが、

暖かい光に照らされたキッチン風景には、暮らしの匂いがあってこころに残った。お鍋の中身はなんだったんだろう。

 

Sと恋人は日本で知り合ったというのを今回解説パンフで初めて知った。日本のどこかのお祭りだったらしい。

 

とても良い映画だったが、大手の配給には乗らないのだろう、渋谷のミニシアターと新宿ぐらいでしか、東京ではやっていない。それでも、この暑さのなか、たくさんのひとで大入り満員だった。

 

青山通りなんて久しぶり。終了後、通りかかったポートランドからの出店というオーガニックレストランがあったので、そこへ入ってランチを頼んだ。残念ながら、悪くはないけど、特別美味しいとは思わなかった。お店は木を活かした素敵なつくりではあったけれど。オーガニックとか謳い文句のあるお店はなぜか当たりがあまりない。