山麓の村

先週から、夏のような20度を超える日があるかと思えば、一転して翌日には、10度ぐらい気温が下がることもある今日このごろ。体調を崩しがちで、風邪をひいている人が多いようだ。

 

喉元過ぎれば、で、備蓄用の食料や水の補充が適当になっていたのを見直してチェックした。以前は災害専用で備蓄していたが、普段食べないのでどうしても古くなってしまう。それで、最近は全粒粉のクラッカーをまとめ買いして、それを朝食にしている。とても美味しいし、個別包装なので、携帯にも災害用にも便利。

 

水はミネラルウォーターをある程度ストックし、あとはクリスタルガイザーのガロンボトル4個に水道水を入れておいて、ローテーションで植物の水撒きに使っている。4日に一度の入れ替えになるのでまあまあ非常時には使えると思っている。

 

先週、DVDで高峰秀子主演の映画「カルメン故郷に帰る」を見た。前から知っている名前であったけど、見たのは初めて。60年代に廃線になった、草津、軽井沢間を走っていた草軽鉄道の実際に動いているところを見てみたかったのが主たる動機だった。

 

実際の鉄道や駅舎がこんな感じだったというのがよくわかったけれど、それ以上に、いつにないぐらい、とても感動してしまった。高峰秀子は、「浮雲」とかで「本当にうまい女優だなあ…」と思っていたけれど、異様に暗い「浮雲」とは違って、こちらはちょっと軽薄で強気な、ストリップを「芸術」として一席ぶったりする面白いキャラクター。

 

浅間山麓の開拓村を家出同然に出て、東京で「リリィ・カルメン」という源氏名でストリッパーをやっている高峰が、故郷の村へ里帰りしてひきおこすドタバタ風の喜劇なのだが、「芸術」が妙に喧伝された戦後の風潮、風俗などが、おもしろおかしいだけでなく、よく描かれており、時代の雰囲気が生き生きと伝わってくる。

 

牛や馬が放牧されているような、浅間をのぞむ高原で、二人のダンサーが浅草のレビューみたいに踊りまくるのも、ミスマッチでかなり笑えて、面白い。見ていて、気持ちがなんだかのびのびする。

 

日本の人情喜劇も結構面白いんだなあ、と思った。

 

けれども、一番感心したのは、高峰が昔心を寄せていた元学校の先生?の作曲家がいて、戦争で盲目になったようで、奥さんが馬車ひきの仕事で生計をたてている。

 

その作曲家の歌が運動会で披露されるのだが、高峰たちのドタバタ騒ぎで中止になってしまい、作曲家は失望、ラストシーンでそれが再び日の目をみることになる。生徒たちが、その「ふるさと」という歌に合わせて、お遊戯というかダンスをするのだが、そのシーンが胸を打つ。田舎の分教場みたいな運動場、古びたリードオルガンの響きに合わせて、少年少女が裸足で踊る。

 

 

単純な、そしてちょっと翳りのあるメロディーの、少し寂しげな歌で、なんとも言えない叙情がある。

 


映画・カルメン故郷に帰る主題曲「そばの花咲く 木下忠司作詞・作曲」

 

この映画の音楽は木下恵介監督の弟さん、木下忠司と、黛敏郎がクレジットされていて、黛の音楽がなぜか好きな私は、黛の作曲なんだろうと思ったが、監督弟の方が作ったものだった。

 

51年の作品なので、まだまだ日本が貧しかった時代だが、戦後のこの時期は、日本も、映画界も、戦争のくびきを解かれて、創造のエネルギーに溢れていたのだろう。

 

今の「カネまみれ」で内容空疎なものばかりが造られている時代とのあいだの、この60年ほどで日本が失ったものを改めて見せつけられた。俳優の力が落ちたのは、テレビの普及と関係があるのではないか。

 

カルメン」の父親は、派手派手しい娘に当惑、困惑しているが、最後では、「あれもとにかく都会で頑張って稼いだお金なんだろうし…」と心境の変化を見せ、カルメンが実家にわたしていったお金を学校の校長に託し、それは教育資金になる。校長曰く、「村から新しく芸術家が生まれんことを…」

 

古い映画の面白さは、昔の風景に会えることだろう。北軽井沢は往時の面影はもうないだろうが。名前は軽井沢だが、そこはもう群馬県長野原町である。岸田今日子が子供の頃、そこの「山の家」ですごした思い出や草軽鉄道のことを書いていた。一度乗ってみたかった…。