唯一の楽しみ

ずっと見ているスペインの連続ドラマ。「ダウントンアビー」の10倍ほど面白く、歴史のなかの人物模様と街並み、風景、衣装、照明の当て方など、すべてが陰翳の濃い、ゴブラン織りのように美しい。

 

スペイン内戦時のモロッコから、マドリッド、現在はリスボンへと舞台は転々と変わり、ドレス工房を営む女主人公は英国女性ロザリンダとの友情のため、また祖国をファシストから守り戦争に巻き込まれることを避けるために、英国諜報部のために密かに働くのであるが…。

 

今のリスボンは「つわものどもが夢のあと」で地味な都会なのだろうけれど、少なくともこの映画で見る風景は、古いタイル装飾の美しい、趣きある都会である。

 

ずっと昔、バイロンが「世界で最も美しい」といったポルトガルの町シントラや大学町のコインブラへ一度行ってみたいと思っていたものだが。その憧れを思い出した。

シントラの秋、木の葉の黄金色がなんとも鮮やかで、それも濃い金色だった映像を思い出す。

 

今週のはさきほど見終わったけれど、主人公シーラが身辺を探っている実業家の別荘の夕食会で、ナチスの高官たちが、タングステンの取引の契約を丁々発止でやりあっているのを、夫人達とカードゲームをしながら聞き耳を立てる主人公。

 

当時から、こうした希少金属は貿易の「金の卵」だったのだ…。満州の阿片のようなものか。

 

マイクロフィルムをすり替えに別室に行ったシーラの髪から蘭の花弁が一枚だけ落ちてて…。暗い床に牡丹色の花びらが浮かびあがる。

 

スペインがこれほど洗練されたテレビ映画をつくっているとは…。新しい発見だった。脚本も会話も完璧。まるで町の香りや音が漂って来るような映像である。

 

ただ、フランス語からの類推で分かるだろうと思っていたスペイン語はたいそう早口なのであまり分からない。この吹く風のように、さささっと喋るスペイン語は南米のと違い魅力的だ。

 

災害続きで神経も疲れている身にとって、唯一の悦楽の時間。