夢の万年筆

久々に快晴の日。ベランダには燦々と日光が射している。春に花が終わって放っておいたプランターから、チューリップの芽がいくつも出てきた。球根は3個で花も3つだったのに、今度は倍ほど芽が出た。胡蝶蘭も花は秋口に終わったが、葉っぱは元気。

 

一昨日は、銀座のアップルストアへOSを変えてからの不具合の相談に行った。

 

日本語ソフトの変換については、やはり彼らプロフェッショナルも、今回のOSでだいぶ戸惑って、慣れるのに一週間ぐらいかかったとのこと。要はカンタンで、設定のところで、新しく加わった「ライブ変換」というのをはずしてやれば、元の通りになった。

 

また、私は設定や環境が変わってトラブルが起こるのがイヤで、マウンテンライオンから一切アップグレードしていなかったのだが、クリエイターのひとたちには結構そういうひとが多い、けれども、その場合は、セキュリティのアップグレードだけは、逐次行っている、という話で、大いに納得した。

 

しかし、インターバルがありすぎるのも問題で、周辺機器との関係もあり、3年に一回ぐらいでアップグレードするのが妥当なラインらしい。

  

ただ、日本語のインターフェースとしてはやっぱりマックは使いにくく、ワードの設定にも問題があるので、ウィンドウズもまた考えたりしていたのだが、ウィンドウズだと、今度はトラブルを相談しにいくところがない。

 

そんなこんなで、ローテクというか、このあいだ、近代文学館に行ったときに、満寿屋という有名店の200字詰めの原稿用紙を買ったことを思い出した。劣化しない中性紙と説明書きに書かれていた。

 

私が最初に編集の仕事を始めたとき、ワープロはまだなくて、全部手書きだった。だから、対談やインタビューなどは、速記者の手書きの速記録を使って、私の方も手書きで原稿を書いていった。200字の原稿用紙に鉛筆書きで大量の原稿を書いた。

 

原稿用紙を久々に使ってみたいなと思ったが、今度は万年筆がないと、と考えたり。万年筆も使わなくなって久しいから家にはない。

 

私のもといた職場では、退職するひとへ職員皆で、記念のプレゼントを贈る慣習があった。本人の希望をきいて贈るのだったが、私は当時転職マインドにあり、「私が辞めるときは…」とあれこれ考えていた。花束と一緒に渡すのが恒例だった。

 

90年代だったと思うが、当時、ウォーターマン社から「アナスタシア」という万年筆がおそろいのボールペンと一緒に発売された。写真で見ると、緑色がベースのロココ風というか、装飾的な製品で、「私が辞めるときは、ぜったいにアレ」と独り決めしていた。

 

銀座の伊東屋まで実物を見にいったこともある。女性用ということでかなり華奢で、且つ、思ったより重厚感がなく、可愛い感じのものなので、その万年筆熱はちょっと醒めてしまった。たぶん、セットで3、4万円ぐらいだったから、記念品の予算にぴったりで、ちょうどよかったのだが…。

 

ネットで見てみたら、もう現在は販売していないモデルで、ビンテージ商品になっていた。少しこころが動いたが、カートリッジも日本では手に入りにくい品のようであるから実用的とはいえない。

 

ただ、万年筆そのものが使われなくなっているので、こうしたお洒落な製品を見つけるのはとても難しいだろう。そういえば、万年筆以前には、インク壺とペン先を取り替えるかたちのペンがあったっけ。さすがに、羽ではなかったけれど…。

 

「アナスタシア」ペンの夢想に耽っていたのも昔のこと。転職はかなわず、それから十年ぐらいして、記念品どころか職場自体が無くなるという運命に遭ったことは、皮肉なことであった。