欠片の謎

しばらく前に読んでいたSteve Berryの小説The Third Secretの翻訳版だが、結構目からウロコの発見があった。

 

嵌っていたスペインのテレビシリーズ「情熱のシーラ」で、ファティマの聖母のメダルがちょっとした小道具として使われていて、ファティマのことを思い出し、たまたま図書館で見つけた本というわけだ。

 

主人公はアメリカ人の司祭で、バチカンでドイツ人法皇の秘書をしており、枢機卿の帽子に手が届くポジションにいる。法皇は孤児であった彼にとって父親のような存在。この法皇は教会の因習を徐々に打破したい穏健な進歩派だが、次期法皇を狙う宿敵のイタリア人の枢機卿がいる。

 

ファティマ第三のメッセージは既に公開されているものの、実は、もっと長文であって、失われた部分があって、その「隠されたメッセージ」を高齢で余命も長くないと悟った現法皇が取り戻そうとするのを、イタリア人の守旧派枢機卿が妨害する攻防戦である。翻訳をしたルーマニア人の老司祭も介在する。

 

なぜ攻防があるかと言えば、第三のメッセージの「失われた部分」は教会組織の存続を危うくするものだからだ。これは作者の「創作」したフィクションではあるのだが、教会が組織の名のもとに、人々を拘束してきたことを許さない、という聖母の強いメッセージがそこにはあった。

 

最後にあきらかになる聖母のメッセージは「愛や結婚について、教会の介入を許さない。個人のこころの声に忠実に」ということを述べているのだが、具体的には、司祭の結婚、同性同士の恋愛、女性の「産む、産まない」の決定権、などのことを指す内容になっている。

 

娯楽小説のかたちをとりながら、ラ・サレット、ファティマやメジュゴリエで子供たちに託されたメッセージがどういう意味を持つのかを提示しているという意味で、優れた作品だと思った。ヴァチカンのアーカイヴのレゼルヴァという、法皇以外立ち入り禁止の「御文庫」をめぐっての攻防は手に汗を握る。コンクラーヴェの政治的駆け引きも興味深い。でも、それだけならただの娯楽小説だ。

 

作者ははっきり作品中で言いきっているが、なぜ、これらの「お告げ」について、これほど厳しい箝口令がひかれてきたかと言えば、それが公になれば、現在の教会組織が指針としているものがすべてひっくりかえってしまうから、である。

 

ファティマのシスター・ルチアの幽閉にも似た隔離状態、また、これらの子供たちに常に言われる、被虐待児であったりするトラウマが妄想的な期待を抱かせたのだという精神病理的な解釈というのも、これを認めるとすべて既得権益を失ってしまう層があるとなのだろう。

 

最近、日本で問題になっている、子宮頸癌ワクチンの副反応をめぐる論戦で、超保守系の雑誌に「これらの反応は思春期特有の心因性のもので、こうした重篤な副反応(けいれんや麻痺)を起こす少女たちには、一定の生育歴や環境、パーソナリティのパターンがある」といった論が掲載された。

 

この「論」を見て、私は、ああ、お告げの子供たちについてのトラウマ理論とよく似ているなあ、と感じた。子宮頸癌ワクチン論争の一番奇妙なところは、他の感染症のワクチンと違って、これはガン検診をきちんとすることで防ぐことができるのに、なぜ、ローティーンの少女たちにワクチンを打たなければならないのか、ということである。

おまけに、この「心因説」支持者たちは、日本だけがこの副反応騒ぎで、摂取が立ち後れていると盛んに言っている。

 

たしかに、ワクチンや輸血の拒否は、カルト宗教の判断のひとつの目安になっているが、コストとベネフィットをその都度勘案するのが、現代の常識というものだろうと思う。

 

聖母は、「自分のこころに忠実に…」という主旨でいくつかのお告げを述べ、ただし、信仰だけは失わないように、と最後に念を押している。

 

私が最近思っていることと、これがジグソーパズルのようにぴたりとあった。