蝶の飛翔

台風18号のためにたいへんな水害になっているが、こちらは雨が昨日からあがって、太陽がさんさんとふりそそぎ、今日は真夏のような太陽がじりじりと照りつけている。

 

村上春樹の新作エッセイが発売になって、部数の9割を紀伊国屋書店が買い取って書店に配本するといった、アマゾンを標的にした画期的な売り方をしたとは聞いていたが、近所の書店にも並べてあったので、購入して午後から読んでいる。

 

20代での喫茶店経営の借金を返すまでの貧乏暇なしの生活の様子なども書かれていて(テレビもラジオもなく、あるのは目覚まし時計ぐらい、暖房も十分でないので、猫5匹で暖をとっていたなど)また、小説を書き始めた頃は「こんなのは文学じゃない」みたいに批判されたことなどが綴られてある。

 

海外で長く暮らしていたのも、日本でのそうした批判や雑音が鬱陶しかったからだという。

 

興味深いのは、彼はどんな逆風のなかにあっても、一貫して自分のなかに確乎たる確信があって、ブレないことだ。「こんなのでやっていけるだろうか」という不安がないわけではなかったようだが、自分のなかで「こういうもの」がいつかできるはず、という、ものすごい確信を持っていることがユニーク。

 

考えてみると、学生結婚をして、喫茶店をやり、7年かかって大学を卒業というふうに、普通の生き方をはまったく逆コースで生きており、それは、そもそもの始めから、外の世界にあわせるのではなく、自分の内面をコンパスにして生きてきた、そういう強さから来ているんだろうと思う。

 

小説に何を書くかという点について、「加算」ではなく、限りなく引き算をしていくことで方向が見えて来ると言っているのは、人生全般についても言えるかもしれない。彼曰く、詰め込んだものが多過ぎると、エネルギークラッシュが起きるということだが、

説得力がある。

 

彼の書いたものにある、ある種の風通しのよさは、この「引き算」からきているのかもしれない。

 

自分のこころも何となく軽くなったように感じて窓の外を見ると、台風一過のやわらかい風が吹き過ぎるなか、二匹のキアゲハがニセアカシアの茂みから、青空に向かって羽ばたいた。