浅学非才

一時期より悪夢を見ることが少なくなった。外的な状況は苛烈なことが多いのであるから、悪夢のうちのかなりの部分は自分の内的な葛藤ないし、不安が投影されたものだったのだろう。しかし、全部が投影かというと、そうでもないかもしれない。

 

 さて、ヒゲの殿下の伝記という、ヨイショでしかないような本を出した女性作家の夫が、最近、昭和天皇の謎についての本を出した。たまたま本屋で見かけたのだけれど、パラパラ立ち読みしたら、終戦前の4月に皇室から莫大な金額のお金がスイスの赤十字本社に送られた、とか、いわゆる皇室の隠し財産をほのめかすような書きぶり。

 

しかし、この手の本によくあるような断定的な書き方はせず、あくまでも事象だけを淡々を書いているのだが、宮様の伝記やら、故宮妃への聞き書きなど、皇室モノでも活躍している妻とは正反対のベクトルで書かれているわけで、この夫婦が二人で何を目指しているのか、奇妙である。夫はもと編集者で妻と共同作業しているのは、よく知られたことだからだ。

 

しかし、参考文献の数はたいしたことはなく、大分で竹細工職人をやりながら、自力で天皇の闇について次々と著作を出している鬼塚さんというひとの説をだいたいはそのまま踏襲しているのではないだろうか。

 

成人皇族になった内親王が、大学を変えて(しかも学習院の教育学科は教育学をやりたいという彼女の希望があって新設されたと言われている)、しかも、AO入試という、実力を問うことが必ずしもできない入試で、ミッション系の大学へ転学したことも、試験のために日夜努力している他の受験生を考えたら、モラル的にやってはいけないことではないだろうか。

 

しかし、この大学はそもそも、東大をしのぐアジア一のキリスト教大学をつくるべく、

昭和天皇の弟宮などの肝いりもあって建学されたわけだから、「関係者枠」といってもいいかもしれない。ここの卒業生はなるほど英語はできるかもしれないが、それ以上でもそれ以下でもない。浅学非才とは、謙譲語として普通使うものだけど、ここの卒業生はその言葉があてはまる。

  

終戦直後、マッカーサーに寄せられた手紙をまとめた有名な本があるが、それを読むと、終戦直後は少なくとも多くの人々の、天皇教の洗脳はとけたようであり、マッカーサーにいろいろなことを直訴し、天皇を軽んじているような論調が主流で驚く。編者は思想的に色がついているひとではないので、当時の世相は実際そういうものだったのだろう。

 

まあ、そのあとは、共産主義の脅威を前にして、天皇制を取り込むことで占領行政を回して行くことに、方針が転換されたわけである。

 

このあいだ、NHK三島由紀夫の大特集的な番組があって、珍しいフィルムや回想がいろいろあった。しかし、私が奇怪に思ったのは、ドナルド・キーン先生は出ていたけれど、三島の伝記を書いて世界的に有名になった、親しい友人であるH・S・ストークス氏は出ていなかった。なぜだろう、講演活動とかをよくしているのに。NHKの企画に賛同できなかったということだろうか?

 

ストークス氏に伝記を書くようにすすめたのは、献辞が書かれている、スイスのある銀行家だ。

 

スイスだからといって、隠し財産とは関係ないかもしれないが、私が疑問なのは、ストークス氏は三島の最期から一ヶ月ほど前に手紙を貰っていて、何らかの予感を感じていたものの、怠惰なためにそのままにしていたのだという。友人であれば、考えられないことである。番組に出演していた大蔵省の同僚だった別のひとは、「あのひとはけぶりも見せなかった。知っていたら、絶対止めただろう」と言っていた。

 

結局、通して見ていて「やはり」と思ったのは、「鏡子の家」の不振、酷評で文壇から遠ざかった三島に、政治的な青年達が近づいてきたことだ。「若者がやってくるようになってきて、自分の書いた小説が現実になっていくようで怖い」と本人が言っていたそうだから。

 

それら青年の一部は、生長の家と関係があるとは以前から言われていることだ。誰かの意図が背後にあったのかもしれない。

 

遺作になってしまった「豊饒の海」の三島の創作ノートによると、もともとはハッピーエンディングというか、副主人公の本多は、夢うつつに現われた17歳の少年の腕のなかで息絶えるというメモが残っているそうで、「清顕さんというかたはおらしゃらしませんどしたのでは?」というような、あの虚無的な終わり方とは違うものだったという。

 

だいたい、三島はこの作品のあと、藤原定家について書こうとしていたとか聞いたことがある。

 

三島は昭和天皇をはっきり嫌いと言っていたそうだから、天皇万歳と言って死んだのは、天皇制とかそれに象徴される日本の伝統を指すのだろうが、それにしても、天皇の実体を考えると、強烈なアイロニーというか、気の毒というか、それにスイスの金持ちまで絡んでいるとしたら、なにをかいわんや、である。

 

三島は死ぬ必要はなかったのだ。だから、三島の死をもちあげるひとたちには違和感がある。

 

そういえば、アンナ・アンダーソンの遺灰もスイスに撒かれた。ちなみに、ストークス氏はクエーカー教徒の家柄。占領行政を仕切ったのも、フェラーズとかクエーカーであるのは、因縁か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広告を非表示にする