奇跡

IP電話だと災害時には困るというのも、確認してみたら、ウチの場合は、110、119は通話できるので、そのままにしておこうと決めた。一応都会居住だし、過剰防衛に力ばかり使っていてもまずい。

 

震災以降そんなことにばかりアタマを使っているので、どうかと思ったり。

 

それより何より結構ショックなことが今日はあった。Annna Andersonの聞き書きをきちんと行って本を書いたLovell氏であるが、彼の本「アナスタシア、ロスト・プリンセス」は1991年出版され、たしか角川の単行本で翻訳を私が読んだのは93年のはじめだったと思う。

 

今日、その文庫版(ちょっと簡略されている)を読みながら、あらためて、アナスタシアに唯一信頼された「青年」(最初にあったのはまだ駆け出しのライターのようだった)の慎重さと聡明さ、情熱みたいなものに感心していたのだが…。

 

日本の翻訳の場合、往々にして完訳ではなく、時々、日本の読者向けではない部分ははしょってあったりするので、原著を注文したのだが、それがほぼ一ヶ月かかり、カナダの書店のはずがなぜかベルギーから届いて、その本の粗末さといってはなんだが、いかにもマイナー出版社の印刷であるような写真の具合とか、インクに驚いたのが先日のこと。

 

日本版は角川がたいそう立派な装丁で出しているのに、原著はいかにもみずぼらしかった。そのことにショックを受けるとともに、この内容と優れた叙述に鑑みて、これだけの体裁の本にしかならなかったというのは、それだけ「書かれてはまずい本」だったのだな…と思った。

 

それでLovell氏は今どうしているのかな、この仕事を始めたときは、まだアメリカ地方紙の書評を少し担当する程度のライターだったようだが、と思い、ネットで検索したら、なんと93年か94年に亡くなり、lateという形容詞がついていた。

 

ほぼ執筆に20年かかったらしいから、そんなに若くして亡くなったわけではないが、しかし、正確にはわからないが、そんなに歳ではなかったのではないか。なにしろ、原著などにも、そうしたデータが載っていないので、よくわからないのだ。

 

彼は、聞き書きをしただけでなく、膨大な資料も集めた。また、人をめったに信用しないアンダーソンが、なぜか彼にはこころを開いたのも、どこか、父に目元の面影が似ていて、神智学徒である彼女は父の転生だと、勝手に信じていたことも、聞き書きには功を奏したようだった。転生はともかく、若くて、誠実、純粋な印象を持ったのだろう。

 

しかし、すっかり忘れていたが、今日、改めて読み直してみると、77年、まだ会って間もないころ、「キングコング」の映画を夫妻と彼は見に行って、そこで「キング」の死を見て感情が高ぶった彼女が、映画館の人気のないロビーで、彼だけに、一家に起こったことを話すあたりは圧巻である。(テープもノートもないことを「しまった」と彼は思ったのだが、だから却ってよかったのでは)。

 

皇帝一家は皇太子を除く(つまり皇帝も)全員がボルシシェビキに何度も陵辱されたのである。その時から、自分は神を信じなくなった、と彼女は言った。

 

このあたりは読むとちょっと気分が悪くなるが、どう考えても、これは作り話とは思えない。それを語る彼女の動作なども記憶をたよりに詳しく書かれている。そうして、彼女は「ジョージ五世さえ、脱出を助けてくれていたら、こうはならなかった」と激しく英国王室を呪詛している。

 

あと、想像妊娠で生まれなかったと言われた5番目の女の子が、一家にはいたらしいこと、その子がオランダに連れ去られたことが、Lord Mountbattennの姉アリスとギリシャのAndreos王子との結婚に影響があって、1903年、何か騒ぎがあったこと、など、これは別の膨大なインタビューのテープから起こしているが、などなど、瞠目の話がある。

(この第五子についてはLovell氏はオランダで詳しい調査をして、結論は保留しているが、その女性がいわゆる霊能者として地域で治療にあたっていたことは何か不思議でもある)

 

これだけ詳細な本が隅に追いやられているのも、アンナがインポスターという評価が定着しているからだろう。

 

アンナは本を書くのは、自分が亡くなってからにしてくれ、と言っていた。そうして、普段はエキセントリックで時として支離滅裂だが、時として威厳を持った預言者のように冷静になり、「自分が亡くなったあと、遠からず、悪魔どもの帝国は崩壊するでしょう」というようなことを言っている。彼女は84年に亡くなったから、ソ連の崩壊はほぼその予言をなぞっているともいえる。Batttenbergのものが王位につくときに、英国の王政は終わるというグリゴリー師の予言についても話している。

 

Lovell氏がいつどうして亡くなったのかはわからないが、彼がアンダーソンと出会わなかったら、この貴重な証言というか歴史の真実は残らなかっただろう。彼女は静かな生活を望んでいたわけだし。

 

真実はいつか現われるとは言うが、やはりそれを「残す」という行為なしには、やはり埋もれてしまうものなのだ…。

 

私は最初、既にLovell氏が亡くなっていることがショックだったが、この優れた労作が

残ったことは、まさに奇跡なのではないだろうか、と今は思う。

 

ところで、Lovell氏の集めた膨大な資料はどうなったんだろう…。ろまのふの当主を名乗っていたうらぢみーるは、アンドレイ大公が集めたアンダーソン関係の資料を殲滅したらしいが、やはりそういう運命になったのだろうか。

 

Kでも、T翁の主なき家を、当地の牧師が家捜ししていたという、へんな話をそういえば聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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