蓮の花

今日はときどき雨模様の日。図書館へ本を返却に行って、週に三回、この大公園のレストラン脇にやってくる移動販売のパン屋さんでパンを買おうと思ったのだが、店舗は別にあって、11時半にならないと来ないので、待ち時間のあいだに、久々に公園内の茶亭に行った。

 

以前、蓮の花の写真を載せたこともある日本庭園に面した茶亭である。今日は雨が降ったりやんだりのお天気なので、さすがに、お客は誰もおらず、立礼茶席にも使うらしいその茶亭を貸し切り状態にして、ずっと日本庭園を眺めていた。

 

ガラス戸のすぐ向こうには、大きな焼き物の鉢に小さな蓮が浮かんでいて、その傍に、背丈の低いサルスベリの灌木の花が今を盛りと咲いている。蓮の鉢は、前から私もこういうのをベランダに置きたいなあと思っていたのだが、蚊が湧くだろうし、それを避けるためにはメダカでも入れなければならないだろうし…とかいろいろ考えていて、そのままになっている。

 

お煎茶を頼んだが、お菓子はいずれも瓢箪など季節の風物をかたどったもので、今日は芙蓉だったか、木槿の花の練り切りのお菓子にした。その餡のあっさりしていて上品なこと! まことに結構なお味でございました。

 

飽かず、雨の庭を眺めていたが、これは結構小振りの庭なのだけれど、遠方に杉を植えて、その手前に松などがあり、小さな滝やあずまやもあり、というふうにコンパクトなのだがいろんな要素があって、いつまで見ていても飽きない。もともとフランス式整形庭園などはあまり好きではないし、人気のイングリッシュガーデンも素敵ではあるが、日本庭園はなんというか、観照の時間が持てる、瞑想的なところがやはり良い。

 

といっても、石庭などの禅の庭だと瞑想的過ぎていささか退屈するのだが、このように、石や岩も取り入れながら、自然のいろいろな要素が盛り込まれているのは、こころが落ち着く。岩のあたりの百合が枯れ始めていて、曼珠沙華がこれから咲くようだ。

 

小一時間ほどいて、茶亭を後にして庭へ回ると、なんと蓮池の蓮がすくすくと育って丈が高くなっており、ピンクの大輪の花が三つばかり咲いていて、驚いた。ここのは熱帯睡蓮のような小さな種類だと思っていたからだ。カメラを持っていなかったのがほとほと残念(やっぱりiPhoneに戻そうかしらと一瞬考えた)。

 

本当に、絵に描いたような美しい花。有名な蓮池はたくさんあるけれど、皆、大量に咲いている。ここのは、岸近くに、少し群生している程度で、それが、奥の小滝を背景にいくつか咲いていると、まるで小さな極楽浄土なのだった。

 

この蓮はどんな香りかは分からないが、タイに行ったとき、お寺では仏像にお参りする際に、線香と蓮の花を持っていく。蓮の花といっても、長い茎の先に蕾のように巻いているもので、その外皮を何枚かめくってお供えをするのだが、その時になんとも言えない、よい香りがするのである。爽やかでひたすらに清浄な香り。水のような香りとしか言いようがない芳香。薔薇や百合の芳香とはまた種類の違う天上的な香り。でも、私はこれが最も良い香りだと感じる。

 

こんな香りの、シングルフローラルの香水があったら良いだろうな…。

 

さて、ようやくパン屋さんもやってきていて、天然酵母の美味しいパンを買うことができた。地元のパン屋さんなのだが、素材はかなりこだわって全国各地から集めてつくっている。もう季節が終わってなくなったのが残念だが、私が大好きなアンズのジャムも、長野のアンズ、北海道の甜菜糖を使って、という具合で、実際に、それぞれの産地を訪ねて素材の契約をしているとか。多少割高だが、この種のパン屋でむやみと値段が張るところが多いのに比べれば、普通に近いところも気に入っている。

 

茶亭もそうなのだが、ここは隠れた穴場であって、観光地であればこうは行かないだろう。日常を気持ちよく過ごせるところがあれば、そんなに遠出したいとは思わなくなる。

”隠れ里”に棲む日々。