ガブリエル・ローラ

ローラ・アシュレイで新しいドレスを買った。紺とキャメルのジャガード織りのジャージー素材のワンピース。キャメルの部分がダイヤモンド柄になっているもの。Aラインというほどでもないが、さりげないAライン風のシルエット。

「シンプル」「エレガンス」という言葉が実にふさわしく、さらに機能的でさえある。

実はシーズン初めに見て、「恋に落ちた」のだったが、ワンピースは着回しがきかないので、買うまでは至らなかった。

 その後も気になったのだが、人気商品だったらしく、あっという間に店頭からなくなった(これは全国的にだったらしい)。

 ところが洋服にも「ご縁」というものがあるらしく、3日前、たまたまショップに寄ったところ、これが他のドレスやジャケット類のなかに混じって、掛けられているのを発見。聞くところによると、サイズが合わなくてキャンセルされたものらしい。非常に珍しいことのようだった。

 試着してみると、驚くほど着心地のよいのにびっくり。ネックラインの開き方も私にとっては理想的で(このあたりがもたもたしたり、ぴったりしないとこういうシンプルなドレスだけにごまかしがきかない)、長さも私には膝丈で、非のうちどころがない。ゆとりも適度にある。

 それでもちろん買うことにした。が、意気揚々と楽しい気分のまま、スターバックスでコーヒーとサンドイッチを食べているあいだに、黒雲のような疑問が次々と胸に湧いてきたのであった。

 「なんだか上品過ぎない?」

「これを着てどこへ行くの?」

「保守的だわ」

「いつも自分はボヘミアンと言っているのにおかしいわ」

 などの声。

 しかし、一方では、

「すごく似合うわ。あつらえたみたいよ」

「こういうシンプルでモダンでオーソドックスなものが、あなたには似合うはずよ」

 と、二つの声のせめぎ合い。結局、「保守的」「ブルジョア・マダム風」ということを極力避けたい私は、ショップに戻り、返品させてもらった。

 しかし、である。帰宅して考え直してみた。着方ひとつではないか。いかにもというようなワンパターンな着こなしをこそ、破ってみることもできるのではないか。

 それになんだか「ドレスが私を呼んでいる」ような気もした。

デニムのジャケットなどを合わせれば、ドレスダウンできるし、パールのネックレスをしてお出かけ、ということもできる。ジャージーなので皺にもならないし、体も締め付けないし、まさに「理想のドレス」なのであった。

そもそも、ジャージー素材を女性のドレスに使ったのは、ココ・シャネルが始めたことで、それまでのコルセットで締め上げた洋服から、体をしめつけない、スポーティヴで且つ、エレガントなスタイルを創始して、ドレスによる女性解放を成し遂げたのだった。

 また、ローラ・アシュレイはそもそも英国のファブリック産業の伝統に立っており、ジャガード柄も多く手がけ、その意味では、遠く産業革命の槌音さえ聞こえるような気がする、そんなドレス。

 私の手元に奇縁としてやってきたこのドレスを、だから、シャネルのファーストネームとローラ・アシュレイの名前を組み合わせて、「ガブリエル・ローラ」とでも呼んでみようか。